酸化チタン(TiO₂)の特性と分散・微粒子化の方法

公開日:2026年5月14日
酸化チタン(TiO₂)とは塗料・インキ・化粧品・電子材料・光触媒など多岐にわたる産業で使用される、代表的な無機材料です。一方で用途によって求められる粒径・分散状態が大きく異なる、扱いが難しい材料です。酸化チタンの材料としての特性や微粒子化について詳しく記載していきます。
酸化チタンとはどんな材料か
酸化チタンは地球上に広く分布するチタン鉱石を原料とする不溶性の無機化合物で、優れた白色度・隠蔽力・化学的安定性から、100年以上にわたり白色顔料として使われてきました。近年ではナノ粒子化技術の進歩により用途が急拡大しています。
用途の幅広さを支えるのが「結晶構造による特性の違い」です。
結晶型の種類と特性比較
酸化チタンには主にルチル型とアナターゼ型の2種類があり、同じ化学式(TiO₂)でも特性と用途が大きく異なります。| 比較項目 | ルチル型(Rutile) | アナターゼ型(Anatase) |
|---|---|---|
| 真密度(粒子密度) | 4.2〜4.3 g/cm³ | 3.8〜3.9 g/cm³ |
| 光触媒活性 | 低い(化学的に安定) | 高い(活性酸素を生成) |
| 屈折率 | 約2.7(非常に高い) | 約2.55 |
| 白色度・隠蔽力 | 優れる | やや劣る |
| 熱安定性 | 高い(最安定構造) | 900℃以上でルチルへ転移 |
| 主な用途 | 白色顔料、UV化粧品、塗料 | 光触媒、電子写真、電極材料 |
出典 Stanford Advanced Materials, Wikipedia (酸化チタン(IV)), 日本化粧品技術者会, 物性値データ(スクリューフィーダー.JP)
光触媒としての酸化チタン(アナターゼ型)
アナターゼ型酸化チタンは、紫外線を吸収すると強力な酸化力を持つ活性酸素種(・OHラジカルなど)を生成します。この光触媒作用により、以下のような機能が発現します。
- 抗菌・防カビ:外壁タイル・内装建材・フィルムへのコーティング
- 防汚・セルフクリーニング:大気中の有機汚れを分解
- 脱臭:有機化合物の分解
- 脱硝:火力発電所・ゴミ焼却炉排ガスの窒素酸化物除去(触媒担体)
- 色素増感太陽電池(DSC)電極:アナターゼ型ナノ粒子を多孔膜状にして電極として活用
電子材料分野としての酸化チタン(MLCC用チタン酸バリウムの原料)
酸化チタンはMLCC(積層セラミックコンデンサ)の主原料であるチタン酸バリウム(BaTiO₃)合成に使用されます。スマートフォン・自動車電子部品として需要が急拡大するMLCC向けに、高純度・均一粒径の酸化チタンが求められています。電子部品用セラミックス製造における分散については、以下のページで詳しく解説しています。
微粒子化で得られる効果と用途ごとの最適粒径
酸化チタンの微粒子化は、製品性能に直結する重要な工程です。
例えば粒子が大きい場合は光を強く散乱し、白色度や隠蔽性が高くなりますが、粒子が微細になることで光の透過性が高まり透明性を持たせることが可能になります。また、粒子が小さくなることで比表面積が増加し、材料の反応性が高まります。これにより、化学反応や表面改質の効率が向上し、機能性材料としての性能向上にもつながります。
ただ、とにかく微粒子化をすればよいというわけではありません。以下に、主な用途と求められる粒径について表でまとめています。
主な用途と求められる粒径
| 用途 | 結晶型 | 求められる特性 | 求められる粒径 |
|---|---|---|---|
塗料・インキ(白色顔料)![]() |
ルチル型 | 白色度・隠蔽性、対候性 | 200~400nm |
化粧品(UV隠蔽)![]() |
ルチル型(微粒子) | 透明性・紫外線遮蔽 | 20~50nm |
インクジェット白インク![]() |
ルチル型 | 隠蔽性+沈降防止の両立 | 200~350nm |
光触媒建材・防汚![]() |
アナターゼ型 | 抗菌・防汚・脱臭 | 10~50nm |
脱硝触媒(発電所等)![]() |
アナターゼ型 | 触媒担体・高比表面積 | 数~数十nm |
色素増感太陽電池電極![]() |
アナターゼ型 | ナノ多孔構造・高比表面積 | 約20nm |
| MLCC原料 (チタン酸バリウム合成) ![]() |
ルチル型orアナターゼ型 | 高純度・均一粒径 | 100nm以下 |
このように用途によって、最適な粒径や結晶型は大きく異なります。
例えば、インクジェットインクはできるだけ微粒子化して沈降を防いでいますが、酸化チタン(白インク)の場合、粒径を100nmレベルまで小さくしてしまうと不透明さ(隠蔽性)が低下してしまいます。粒径を大きくすると沈降し、ノズルの中で詰まりやすくなってしまうため、300nm前後の平均粒子径で設計されるケースが多いです。(出典:中島一浩, 色材協会誌2023年2月号)
酸化チタン粉体の特性:なぜ扱いにくいのか?
酸化チタン(特に微粒子品)の扱いにくさは、「かさ密度」と「凝集性」の2点に集約されます。
①かさ密度が非常に低く、かさ高い
スラリー化(液中に分散)することで固形分の体積密度が上がり、取り扱いが容易になります。スラリー状態では粒子が液中に分散しているため、見かけ上の密度は上昇します。この状態で粒子が沈降しないよう管理することが重要です。
②強い凝集体の形成
酸化チタンの一次粒子は微細ですが、粒子同士が強く結合した凝集体(二次粒子)を形成しやすい特性を持ちます。単純な撹拌では凝集体はほとんど崩れず、ビーズミルなどによる十分なせん断・衝突エネルギーを与えることが必要です。ただし、エネルギーをかけすぎると「過分散」(一次粒子自体を粉砕し、分散後の粒子の特性が劣化する)が起こることもあるため、条件の最適化が重要です。
③表面処理による特性改善
市販の酸化チタン(特に塗料・化粧品向け)の多くは、シリカ(SiO₂)やアルミナ(Al₂O₃)などによる表面被覆処理が施されています。この表面処理により、分散性・耐候性・光触媒活性の抑制などが改善されます。表面処理の種類:
- 無機処理:シリカ・アルミナ・ジルコニアなどのコーティング(耐候性・分散性向上)
- 有機処理:シランカップリング剤などによる疎水化処理(有機溶媒への分散性向上)
表面処理の有無・種類によって最適な分散条件が変わるため、材料のスペックシートを確認することが重要です。
酸化チタンの分散・微粒子化においての課題
酸化チタンの特性により、微粒子化の現場では以下のような声が多く聞かれます。
- 粒子の凝集が解れない
- 処理後もすぐに再凝集してしまう
- 透明性・白色度が安定しない
- スラリーが安定せず扱いにくい
安定した分散を実現するためのポイント
酸化チタンの分散がうまくいかない主な原因と対策を以下に示します。
- ビーズ径が大きすぎて微小凝集体に十分なエネルギーが届かない
- スラリー配合(固形分濃度・pH)が最適化されていない
- パス回数が少なく分散が不十分、または多すぎて過分散が発生
- ビーズミル内での滞留・再凝集
- 小径ビーズ(0.03〜0.1 mm)の活用:高頻度の衝突でナノ領域の凝集体を解砕
- スラリー配合の最適化:固形分濃度・溶媒・pH・分散剤(必要な場合)
- パス条件の最適化:流量・回転数・パス回数のバランス調整
- 材料特性の事前確認:表面処理の有無、結晶型、目標粒径
適切な装置と条件設定により、これらの課題は大きく改善できます。
アイメックスではビーズミルによる高効率分散・微粒子化技術を用いて、サブミクロン〜ナノ領域での安定した処理を実現しています。
酸化チタンに適した装置提案
小径ビーズ対応ビーズミル
「ディスパージョンアルファミルDAM型」
当社のDAM型ビーズミルは、酸化チタンのような高凝集材料の分散に適した設計となっています。

- 小径ビーズ(0.03〜0.1mm)に対応
- 高いエネルギー効率で凝集体を解砕
- 幅広い運転条件設定が可能
処理実績データ(再凝集の抑制)
酸化チタンの分散では、単に粒径を低減するだけでなく、処理中および処理後の分散安定性が重要となります。以下事例において、従来機では微粒子化の過程で再凝集およびゲル化が発生したのに対し、DAM型では粒径低減と安定分散を両立していることが確認されました。実験条件
- 酸化チタン
- 一次粒子:約15nm
- 処理前粘度:5mPa・s以下
- 使用機種:ディスパージョンアルファミルDAM型
処理結果


処理中の粒径変化(D50値)を比較した結果、従来機では粒径が一度低減した後、途中で再び上昇する挙動が確認されました。これは、微粒子化によって表面活性が高まった粒子が再び凝集したことを示しています。 一方、DAM型では処理時間の経過とともに粒径が安定して低減し、再凝集の兆候は見られませんでした。DAM型は、粒子に対して、過度ではなく適切な強度を加えることができるという特徴があります。
処理後スラリーの状態比較
処理後のスラリー状態を比較すると、従来機では流動性が失われ、ゲル化が発生しているのに対し、DAM型では流動性を維持した安定したスラリー状態が確認されました。 このことから、従来機では微粒子化と同時に再凝集が進行しているのに対し、DAM型では微粒子化と分散安定性の両立が可能であることが分かります。
この事例から分かること
装置によって処理の傾向や特徴があるため、うまく分散処理がいかない場合は、装置の選定を見直すことも解決策の一つです。
処理実績データ(分散剤量の最適化)
酸化チタンの微粒子化では、機械的な分散エネルギーだけでなく、分散剤による界面制御が分散状態に大きく影響します。本事例では、分散剤量を段階的に変化させながらビーズミル処理を行い、粒径変化への影響を評価しました。実験条件
- 酸化チタン
- スラリー:10wt%水系スラリー
- 使用ビーズ径:Φ0.1mmジルコニアビーズ
- 使用機種:イージーナノRMB型
処理結果と考察


分散剤濃度を1.5%で処理を開始すると、粒径(D50)は順調に低下しますが、約100nm付近で再凝集が発生し、粒径の低減が頭打ちになる挙動が確認されました。
その後、分散剤を段階的に追加すると再び粒径は低減するものの、同様に凝集傾向が見られ、安定した分散状態は得られませんでした。さらに分散剤を追加したところ、粒径は急激に低下し、最終的に約15nmまで微粒子化されました。これは酸化チタンの一次粒子径に近いレベルであり、凝集体が十分に解砕されている状態と考えられます。
また、初期段階から分散剤を高濃度(12%)で添加した場合には、処理途中での再凝集は見られず、安定してナノ分散が進行し、同様に約15nmまで粒径を低減することができました。
この事例から分かること
この結果は、酸化チタンの分散において、適切な分散剤量の設定が重要であることを示しています。
上記ですでに述べたように、表面処理済み粉体では分散剤なしで安定分散できるケースもありますので、表面被覆処理の有無を把握することは最適な分散処理のためには不可欠であると言えます。
よくある質問
酸化チタンの分散・微粒子化に関して、よくいただくご質問をまとめました。
Q.
酸化チタンはなぜ分散しにくいのですか?
A.
酸化チタンは一次粒子がナノサイズと非常に細かい一方で、粒子同士が強く結合した凝集体を形成しやすい材料です。この凝集体は機械的な力だけでは完全に解すことが難しく、分散しても再び凝集する「再凝集」が起こりやすい特徴があります。 そのため、分散には機械的エネルギーだけでなく、分散剤による界面制御や適切なスラリー流量設定が重要になります。
Q.
ビーズミルで酸化チタンを分散するときのポイントは何ですか?
A.
酸化チタンの分散では、単に回転数を上げるだけでは十分な効果は得られません。重要なのは、凝集体を効率よく解しながら、再凝集を防ぐことです。 そのためには、ビーズ径や回転数、流量などの運転条件を適切に設定し、粒子に均一にエネルギーが作用する状態をつくることが重要です。 これにより、粒径の低減と分散安定性を両立させることができます。
Q.
酸化チタンの分散で再凝集やゲル化が起こるのはなぜですか?
A.
微粒子化が進むと粒子の表面積が増加し、粒子同士の相互作用が強くなります。その結果、一度分散した粒子が再び結合し、再凝集やゲル化が発生します。 特にエネルギーのかかり方が不均一で局所的に強度がかかってしまった場合や、流動が安定していない場合に起こりやすく、分散プロセス全体の設計が重要になります。
Q.
酸化チタンの分散で装置選定のポイントは何ですか?
A.
酸化チタンのような凝集性の高い材料では、装置の性能が分散結果に大きく影響します。 特に重要なのは、小径ビーズに対応していること、ビーズを安定して分離できること、そしてミル内で材料が滞留せず均一に処理される構造であることです。 これらの条件を満たすことで、分散ムラや再凝集を抑え、安定した微粒子化が可能になります。
お客様の条件で分散テストを実施できます
酸化チタンの分散・微粒子化に関する課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
- 最適条件のご提案
- 装置選定サポート
- サンプルテスト対応
参考文献
1)中島一浩.インクジェット技術,挑戦と進化の40年.色材協会誌.2023,2月号,p64-74
2)ペクセル・テクノロジーズ株式会社. 色素増感太陽電池の仕組み. http://www.peccell.com/shikiso.html
3)日本酸化チタン工業会. こんなにスゴい!酸化チタン. https://www.sankatitan.org/titanium_dioxide/
4)石原産業株式会社. 機能性材料:超微粒子酸化チタン製品カタログ(TTOシリーズ)
5)日本化粧品技術者会(SCCJ). 化粧品用語集 酸化チタン
6)スクリューフィーダー.JP. 各種粉体物性値データ
7)Wikipedia. 酸化チタン(IV). https://ja.wikipedia.org/wiki/酸化チタン(IV)








